STG/I:第二話:救世主

「メーデー!メーデー!」

夢を見ている。
俺が夢を見る時は全て悪夢と言っていい。
今となっては体調のバロメーターでもある。

「嘘、駄目だよ、無理だよ、多すぎる、もうヤダ・・・死にたくない」

悪夢の内容で具合がわかるからだ。
夢に現実の知人が出る場合、悪い中では最も軽い。
長さでもわかる。
軽い悪夢で短いのは更に軽い。
具合が悪いことには変わらないが。

「助けて!助けて!誰か!誰かー!」



長い悪夢で幾何学的なものは最悪だ。
死が近づいている証。
夢の中で何かに負けると「死」が待っていると感じる。
負けたことはないが。
��この夢は・・・なんだろう?)
トウ!
サトウ!
サトウ!
サトウ!
��俺はサトウじゃね~・・・)
サトウ!
サトウ!
サイトウ!
サイトウ!
誰かが遠くで俺を呼んでいる。
お前は誰だ。
モニター越しにぼんやりと見えるお前。
誰?
年齢で言うと十代・・中高生?
甥か?
知らないな。
��いや知っている)
誰?
��ほら)
ほら?
��ほら?)
てめーらカスのせいでサイトウが死んだら全員拷問して殺してやる!
そうだ、お前の価値なんてヤツの百分の一もねーんだぞ!
��また内輪もめかよ)
殺せ!
我慢ならねー!このカス共を殺せ!じゃないと何時か俺たちが殺されるぞ!
そうだ・・・やっちまおう。
あいつらのスパイだよ!
��ゲームぐらい楽しくやろうぜ。可哀想に萎縮している)
黙ってろクソ共!
なんだとこの糞ガキ!
サイトウがいなかったら俺たちはどうやって勝つんだよ・・・
終わりだ・・・俺たちも地球も・・・
死にたくない。
死んでねー!勝手に決めんな!
死んだに決まってるだろ!
大勢が言い争っているようだ。
��ストレス貯めるならゲームなんかすんなよ・・・)
お前ら馬鹿か、尾を引いたの見ただろ。いくらサイトウでも不可能だよ・・
不可能じゃねー!サイトウなら絶対に倒す!
ハイハイハイ!ヤツは神様ですよね~。
馬鹿にしてんのか!
根拠ねーんだよ!
��すげーな、そのサイトウっての・・・)
根拠はあるだろ!ヤツが乗ってるのはSTG/Iだ!それだけ十分な根拠だろ!
��STG/I?なんだそれ)
馬鹿じゃねーのか!そんなん根拠になるか!サイトウは死んだんだ!
ママ・・・帰りたい・・・ママ・・・
泣くなガキ共!オカスぞ!
ママだとよバーカ、バーカ!
やっちまおうぜ。
��全くうるせー・・・なんなんだよ・・・)
ふざけんなテメー、少し強いからっていい気になってんじゃねーぞ!
誰がいついい気になったんだよ。
おめーだよ!竜頭巾、りゅ・う・ず・きん!
��竜頭巾・・・聞いたことあるな)
ほっときな・・・
聞こえてんぞクソビッチ!
「あ~・・・も~・・・夢の中ぐらいゆっくりさせてくれよ・・・」
「サイトウ?
サイトウ!
ビーナス!ビーナス!状況を教えてくれ。サイトウが覚醒したのか? ビーナス!」
「だから、うるせーって・・・」
「マスターサイトウは覚醒しました。
座標送信。
周辺区域にターゲット反応ゼロ。
生命維持正常。負傷無し。
機体損傷率66%。
使用可能武器ファランクスアロー。残弾3%。他不能。
メインエンジン補修不能。自己再生不能。
サブエンジン補修中、推定出力可能限界15%。
帰還不能。救援を要請。
秘匿回線GP09S開放ピアツーピア接続を希望」
「ビーナス、どうした?」
「マスターサイトウお帰りさなさいませ。救援を要請しました」
少し広いコックピット。
ネットカフェの個室より少し広いだろうか。
サイトウはサブモニターに映る女性を見た。
「ビーナス・・・何がおきた?」
まだ頭がぼんやりする。
「お忘れですか?」
「ああ」
「脳機能に異常は見られませんが、恐らく一時的な記憶障害かもしれません」
「それより何がおきた?」
「オススメはしませんが再生しますか?」
「頼むわ」
「わかりました。マイマスター」
逆側のモニターで戦闘記録が再生が始まった。
「メインモニターに映してくれ。よく見えない。最近老眼が進んでな~」
「老眼・・・ですか?」
「ああ」
「メインモニターに投影します」
上段のトップモニターには何やら大騒ぎしている基地の様子が投影されている。
「トップモニターの映像と音声はきってくれ、頭が痛い」
「かしこまりました」
「全くな、最近の日本人は随分と・・・・」
*
映像を見るとはなしに見る。
「駄目だ、引き換えせ!」
「あの馬鹿、なんで救出に向かってるんだよ!」
「サイトウ!お前ならわかるだろ、無理だ・・・奴らは助けられない」
「ヤメロ!無駄だ!」
画面が激しく動き周囲は浮遊物で溢れている。
どっちは上なのか下なのか、わからない。
とめどなく発射される光の槍。
何かが正面に張り付いた。
��なんだこれは?)
口のようなものがある。
タコなのか、イカなのか。
そもそも口なのか。
べチャリと張り付き、何やら溶けているようにも見える。
モニターが途絶えた。
「さっぱりわからん。お前の視点でいいから言葉でざっくり言ってくれ」
サイトウはシートに寄り掛かると目を閉じた。
「かしこまりました。マスターは分断された 仮称一○四分隊 六機を救出に単騎で救出へ。敵主力級推定約百。結果、全ての注意を引受へ分隊は帰還成功」
��なるほど狙いは俺か)
「戦闘の後、敵を掃討。推進装置大破につき現在漂流中です。以上になりますがよろしいですか?」
「実にわかりやすい」
「ありがとうございますマスター」
モニター越しの若い女性は微笑んだ。
長い髪。
ブロンド。
ハーフだろうか。
「誰が救出に来るって?」
「竜頭巾さまです」
「タッちゃんか・・・」
「はい」
「つないで」
「かしこまりました」
ジェスチャーでメインモニターを指す。
モニターに竜頭巾のコックピットが投影された。
「サイトウ脅かすなよ、何通信きってるんだ!」
「タッちゃん、お前が来たらマズイから他の誰かにしてくれ」
「駄目だ、僕が行く」
「お前が出たらマズイだろ」
「関係ねー」
��子供だなぁ)
「嬉しいけど、お前が抜けたら俺が困る」
「他のヤツは信じられない」
「そう言うな。頼むよ・・・皆が心配だ」
「やだ」
「陽動の陽動ってこともある」
「・・・」
「甘栗ちゃんいる?」
「いる」
「彼女に頼むわ」
「どういう意味だよ」
「彼女のSTGは整備特化だろ?」
「そうだけど・・」
「頼むよ。甘栗ちゃんをセンターに護衛二機で。チワワとパンちゃんなんかいいんじゃない?」
「・・・」
「厳しいことを言うようだけど、お前の機体では修繕に時間がかかる。それだけ全員が危険になる」
「・・・」
「ありがとう。お前の気持だけ受け取っておくよ。ごめんな」
「・・・わかったよ。一言いいか?」
「なに?」
「アイツはビッチだぞ」
「いいね~」
「いいのかよ」
「いいじゃない」
「ついていけん」
「はははは」
「シンでろ」
「つれないね~」
モニターは途絶えた。
「ビーナスはどう思う?」
「適切な判断だと思います」
「にしても可愛いなお前~。さすが俺。今度新しいアバター買ってあげような~」
「ありがとうございます。ただ、差し出がましいようですが、機種のバージョンアップが先かと存じますが。現在戦況は思わしくありません」
「いやいやいや、お前のアバターが先だよ。俺はほとんどアバターの着せ替えが趣味みたいなもんだから。今度あれだろ?水着アバター販売されるよね」
「はい。五日後です」
「あのサンバで着るみたいなのにしよう」
「それはちょっと・・・」
「なになに~イヤなの?」
「恥ずかしいです」
「いいね!決めた!是非とも着てもらおう」
「エエエェェェ・・・」
「あはははは」
��なんだこの夢)
悪夢のような。
楽しい夢のような。
��いや悪夢だな)
気分が重い。
ということは悪夢なんだ。
笑いながら笑っていない。
笑っているのは・・・。
��気を紛らわせているんだ)
中程度の悪夢だな。
結構調子悪いようだ。
ここのところ寒暖の差が激しい。
それが原因だろう。
低気圧がくると天気予報より早く気づく。
体調が崩れるからだ。
寒暖の差は最悪だ。
特に季節の変わり目はいつも生きた心地がしない。
でも最近はもっぱら変わり目以外でも寒暖の差が激しい。
地球も大変なんだ。
わかるよ。
住んでいるのが人間みたいな馬鹿共だからな。
同情するよ。
生きんが為。
俺の体も生きんが為なんだよな。
わかる。
わかるけど・・・もういいよ。
もう疲れた。
もう死んでいい。
終わりにしてくれ。
「あぁ・・」
目が覚めた。
「なんだよ、眩しいなぁ・・・ふざけ・・・」
モニターが煌々と部屋を照らしている。
体の反応が鈍い。
かなり下がっているようだ。
��なんか夢を見ていたな)
悪夢だ。
中程度の悪夢。
今日は寝ていた方がいいけど。
時計に目をやると、十四時五分を示している。
��また昼過ぎか)
一日が短い。
「あ・・・」
忘れていた。
昨日ゲームをインストールしたんだ。
体が喜んでいる。
楽しみが幾ばくかでもあるうちはいい。
��糞ゲーだったら速攻だけどな)
モニターには浅黒い長身の女性アバターが表示されている。
自室のよう。
宇宙船の中だった。
部屋にはいかにも狭いベッド。
一人用のパソコン机。
ノートPC。
簡単な筆記具。
デスクライト。
四人も入れば一杯だろう。
「ほほ~、シューティングゲームの癖に部屋つきか。無駄に凝ってる。なんの意味があるんだ?3Dロビー型なのか。今時このタイプは流行らないだろ?それにしても美人だな俺。バインバインだし。我ながらうまく出来た。脳みそ腐っているのに」
立ち位置を調整し、何度も自分を見ながらスクリーンショットをとる。
しばらく楽しんだ後、扉の前に立った。
”ロビーに向かう”
”ハンガーに向かう”
”作戦室”
”ショップフロアー”
行ける場所一覧のようだ。
「まずは・・・ハンガーかな」
*
「おーーーすげーな!」
サイトウのアバターは上半身を仰け反らせ見上げ、それに従ってカメラアングルが動き仰ぎ見る。
そこには巨大な円錐が鎮座している。
外壁は白くツルツルに光っている。
公式サイトでは気づかなかった細かい表面処理。
「想像以上!鳥肌たったわ。ゲームで感動するの久しぶりだな。もう感動なんてしないもんだと思ってたけど。コイツぁすげーぞ。なんで過疎ってんだよ。なんだこの無駄技術。すっごいなこのアングル。スケール感が半端ねー!・・・えーっと設定はっと・・・コンソールか」
締め切った薄暗い部屋。
雨戸の隙間から僅かに漏れる光からすると晴れのようだ。
モニターに照らされたサイトウの顔は瞳孔が開いていた。
ひとしきり見るも、これといって今は何も出来ないよう。
「戦果がないと無理っぽいな。武装はパルスバルカンのみか・・・。名前がつけられるとはわかってるね。どうしようかな~。ヤッバイ、興奮しすぎて身体震えるわ・・・でも」
自らの意思とは裏腹にサイトウは目を擦った。
起きたばかりなのにもう眠くなっている。
瞼が自らの意思をあざ笑うかのように閉じようとする。
でもサイトウは食い入るように見た。
「課金してーなー・・・でもま、あれだ、ある程度レベル低いうちに把握しておかないとな。・・・あーヤバイ!あー眠い!あーコーヒー!」
立ち上がり電灯をつける。
三歩で台所。
テーブルは置き場がない。
浮島に林立するビルのように、調味料、ドレッシング、インスタントコーヒー、ココアの瓶が置かれている。その中の三割は中身が空のよう。まるで秘密基地のように電機ポットが中央に置かれている。コンセントをさすと、今や懐かしい電子音がなり、電源が投入されたことを伝える。いかにも一人用の二リットルサイズ。ブラウンカラー。年季が入っている。天板にはホコリが少し積もっていた。空瓶を何本かテーブル下に起き、スペースを作る。
まだ湯だっていないにもかかわらず彼はポットからキャラクターのプリントされたマグカップに水を注いだ。そして一口。
「あ~・・・生き返る。眠い・・・」
トイレに入り便座に座った。
身体が鉛のように重い。
「湧くの待ってられんな。ロビーに行こう」
弾む心とは異なり状態はよくなかった。
トイレが出てきた彼は前かがみ、足元はおぼつかなく、眉をしかめ、片目はモニターを捉えている。
「ロビーはっと・・・」

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