DOORS:第21話・前編「オキノ」

超久しぶりのドアーズ編の21話前編です。長いので分割することにしました。

なお、全編PDFにはまだ反映しておりません。後編まで書いたら反映予定。



第21話:前編の概要

裏切ったと思われるオキノはジョニー隊長と連絡をとり脱出を試みる。

それが結果的にドーラと再開せざるおえないこととなった。

オキノ、謎多き男の更なる謎行動にドーラはただ翻弄される。

何故ジョニーが彼を差し向けたのか、それを知るものはジョニーただ一人であった。



第21話:後編の予告

ピックアップポイントへ急ぐ二人は幸か不幸か大きな葛籠を運ぶ兎を発見する。

しかし銀河警察は圧倒的武力をもって制圧に入ったため彼らは危機に瀕する。

迫る銀河警察の制圧空母。

そんな彼らの元に成層圏外から降下物が。

それはジョニーが使わせたジークだった。

制圧空母ジンベイザメに取り付いたジークは、新しく手に入れたボディを駆使し鬼神のごとき攻撃に出た。

逃げる兎達、追うドーラ、泣き叫ぶオキノ、破壊に興じるジーク。

それぞれの思いの中、偶然が偶然を呼ぶ。







オキノはミンスク宇宙港にいた。

朱音は約束を守ったようだ。

震える手でチケットを手配し一番早い便をとる。

幸運なことにギリギリだった。

港内では既に出発便のアナウンスが始まっている。

(速く出なければ・・。爆破騒ぎが広まれば宇宙港は閉鎖される)

オキノは搭乗口に向かおうとカウンターの前を通ると、若い女性がグランドアテンダントともめている姿を目にした。

「お願いです、補助席で構いませんので、お金はちゃんと払いますから」

「お客様、ですから大変申し訳ありませんがそれは出来かねます。次の便にされてはいかがでしょうか」

「この便じゃないと間に合わないのです、お願いです」

「そう申されましても・・・」

オキノは宇宙港の外を眺め、握りしめていたチケットに目を落とす。

「お嬢ちゃん、チケットはあるよ」

小さなレディにウィンクをし、母親とおぼしき若く美しい女声に声をかけた。

「奥さん・・・これを」

チケットを差し出した。

「え!?・・・でも・・・」

「いいんです。私の代わりに行って下さい・・所詮私は独り者」

「おじちゃんアリガトー!!」

「おじ・・ちゃん」

「カッコイイーっ!!」

「はっはっはっは!さもありなーん。私の名はオキノ・・人はビューティー・オキノと言う。君の名は・・・」

「マユラぁー」

「マユマユか!いい名だ。お母さんに似て美人になるよ」

「お母さんじゃないよー!」

「そ、そうか!・・・とにかく美人になるよ」

「マユラもそう思う」

「はっはっは!君は正直だ!正直な幼女は大好きだぞ!」

「本当によろしいのですか・・・」

グランドアテンダントは怪訝そうな顔をオキノに向け、おずおずと尋ねた。

「構いません(キラン)」

「あ、ありがとうございます・・・本当に」

彼女は辛うじてオキノの手を握り、財布からお金をとりだし手渡した。

それをさりげなく受け取る。


最終搭乗手続きの案内が響く。

「さーおいきなさい!」

オキノの周囲では事情を察した渡航者から小さいながらも拍手が上がった。


「いやいやお恥ずかしい。人として当然のことをしたまでですよ」


当然を強調した。


(ま、・・・間に合うだろ)




しかしオキノの予測は見事に外れる。

彼が乗る便が離陸後、宇宙港は閉鎖された。

アナウンスはけたたましく異常を知らせ、ボーディングボードは全てがキャンセルになる。

ざわめきが周囲を満たし、人々は窓に張り付いて都心部を指さす。悲鳴があちらこちらから上がった。

オキノが人をかき分け窓を覗き込むと黒煙が上がっている。

ドーラがいたホテルの方面だ、本格的に始まったようだ。

(うそぉーん・・・仕事がはやいよ朱音ちゃま・・・。

 このままここにいたら宇宙港は銀河警察によって閉鎖されるじゃん。

 拘束されちゃうじゃんボク)


頭をかかえ踞ったが、再び立ち上がり意を決する。

(あー・・・仕方ない)

「あーもしもし、ジョニー俺だオキノだ。よっ久しぶり!」

「オキノ、どうだ作戦は」

「あー・・・なんだ、計画は失敗だ。残念だがデカイのは助かるまい。俺も助けようと命がけだったんだが・・・すまない」

「そうか。それで」

「それで?・・・それで、なんだ、脱出したいのだが宇宙港が閉鎖されてしまった。どこかで拾ってはくれないか」

「わかった。救助に向かうから合流座標を送る。確認してくれ」

端末に目をやったオキノは思わずのけぞる。

「ジョ、ジョニーさん?ここまでどうやって行くの?」

「市内は混乱しているだろう。乗り捨てのビークルを拾うなり、騒ぎが起きたばかりならレンタルするなり方法はあるだろう。天才のお前のことだ、いかようにもやれると思うんだが」


「それは、そ、それは当然な話だな。そ、そうじゃなくて、あれだ、もっと近くにはならないのか、じゃなくて、ならないでしょうか、という意味だ」


「そのポイント以外では拾えそうもない。閉鎖なんだろ?ということは宇宙港には銀河警察が30分以内にかけつけるだろう。市内のポートも使用不能になる。とすると安全で最短距離はそこしかない」

「・・・ですよねぇ。わかっていたんだが、念の為に確かめさせてもらったまでだ」


オキノの額にはいつの間にか汗がびっしりへばりついていた。ジョニーの説明を受け初めて事態の深刻さに気づいたのだ。


「・・・ちなみにあれだよ、デカイのは私のせいじゃないよ?・・・まさかと思うけど疑ってちゃったりしてたり?・・たり?」

「ん?何を言うんだ。・・・あー、あっはっはっは」


声を上げて笑っている。


「さすがオキノだな。こんな時にまで道化芝居か。さすが歴戦の勇士。余裕だな。だからまかせられる。お前のことだ仕方なかったのだろう」

(暑くもないの汗が止まらないのは何故だ・・・)

「で、で、です、ですですよねぇ~。じゃ、まーリューカーで飛んでいくから、出来るだけ早く拾ってもらえると助かるんだな」

「あっはっはっは。こんな時にもジョークを忘れないとはさすがオキノだな。宇宙港閉鎖時はリューカーポイントは使えないと知っている癖に」

「あ!!!・・・ですよねぇ~!!いや、いやいやさすがジョニーだ。君の知識を少し試させてもらったまでだ。気を悪くしないでくれ」

「わかってるさ。FAにデータを置いたダウンロードしてくれ。そちらの蓄積したデータも全部アップしておいてくれ。ご苦労だったな英雄よ」

「ふっ・・・はっはっは。すまんな。またいつでも呼んでくれ」


震える手で回線をきった。

 


 マジカヨ!これからミンスクで朱音ちゃまと銀河警察のドンパチが始まろうってのに、

 ミンスクの市内をぶち抜いて郊外までビークルで行けってかよ!!

 しかも俺ビークルの免許ねーってのに!!

「言えねーっ!今更いえねーって!恥ずかしいじゃん!!」


 どうすりゃいいんだ・・・・。

 やはり・・・デカイのを拾ってくしかないか。


 生きてるかなー・・・。


 でも、アイツ硬そうだからな。恐らく装甲が堅いのだけが取り柄だろう。


 そうだ!


 そうに違いない。


 アイツは装甲が堅い。だから生きている。

 でも、怒ってるんだろうなぁアイツ。ドロイドの癖に頭かたいからなぁ。

 それにしても変だなぁ、朱音の言うミッションまで後1時間ある筈なのにぃ。

 あの冷徹女め、このオキノ様に嘘をついたのか?!


 ジョニー・ビー・ジョーすら認める真の英雄、このビューティー・オキノ様に!

 裏切り者め。

*

 その頃、ドーラのいたビルは倒壊には至っていないが高層階十階ほどが壊滅していた。

 けたたましい警報音がとどろき、ミンスク自治警察のフォース部隊が到着する。

 地上に出れば恐らく法もなく自警団に破壊されてしまうだろう。ここはミンスクだ、フォース以外は歓迎されない。ドロイドは彼らの宿敵とも言える。しかしこの場にいても事態を悪くするだけに思えた。

 だがドーラにとって幸いなことがおきた。

 自警団と彼を狙撃した何ものかが交戦状態に陥ったようだ。

 そして周囲の喧騒は激しさをます一方であり、それは脱出にするにはむしろ好条件と言えた。


「騒ぎに乗じて・・・」

 ミンスク生粋のフォース連中からすれば、救出より迎撃を優先するのことは明らかだった。

 彼らの目はこのホテルには向いていないだろう。

「全く!あいつと組んでからというものついていないことばかりだ。何がビューティーだ。挙句に何も収穫なく撤退とは隊長に顔向けができん」

 しかし撤退せざる追えないことは誰よりもわかっていた。

 地下に止めている営業用につかっていたビークルに乗らざる追えないだろう。少なくともヘビータイプのレイキャストが搭乗するには普通のビークルでは不可能である。


 しかし、地下向かったドーラと八合わせたのは何を隠そう、彼を裏切ったオキノだった。

「おーデカイの!久しぶりだなー」

「貴様ぁ!!何をぬけぬけと」

「待った!待った!まず話しをきけ。あれは朱音を油断させる芝居だ」

「なに?!いつの間に朱音と接触したのだ」

「ふっふっふ、俺をみくびってもらっては困るな」

 激しい爆音と振動が地下に響く。

「話は後だ!脱出するぞ」

「脱出だと?」

「お前が瓦礫と戯れている間にジョニー隊長殿とは連絡をとった」

「いつの間に・・・」

「そして俺の案を告げたら大層お喜びになり、天才だ英雄だと大盛り上がりだったぞ!」

「そんわけあるか!?」

「そんなわけあるんだ。いいぞーもっと驚け。尊敬しろ。俺を讃えよ!親切な俺が教えてやろう!宇宙港は既に閉鎖された。もう銀河警察が強制干渉権を発動した。そのうち月の町に溢れるだろう。月の町は実質上銀河警察の管轄下におかれるに違いない。朱音の目論見は我々ではなく銀河警察によって阻まれるというわけだ。・・・そうだ!そういうことか!?そうに違いない。さすが俺だ!俺の思った通りだ!最初から俺の計画通りだーっ!!」

「ちょっと待て!!今、『そういうことか!?』と言ったな。途中から話しの流れがかわっているぞ」

「誰がそんなことを言った!愚か者『俺の思った通りだ!』と言ったのだ。わずか二人でダークフォースの企みを探り出し妨害するにはこうするより他なかったのだ。そうだ!そうに違いない。初めから計画通りだーっ!」

「だーっ!て、ちょっと待て!今の会話をもう一度再生する・・・」

「待て!なんという悪趣味な。男同士の会話を盗聴してどうする?!お前は・・・そういう趣味なのか・・・」

「何を言う、ジョニー隊のデフォルトの対応だろう。お前は録音はしていないのか?貴様本当にジョニー隊長の・・・」

更に大きな爆発音が響く。

「細かいことを言っている場合か。いくぞ!」

「どこへ向かおうと言うのだ」

「ふっふっふ。隊長が指示した脱出ポイントをダウンロードしてある。デカブツ飛ばせ!!銀河警察に制圧されたら脱出できんぞ」

「ドーラだ!いい加減覚えろ。くぉ・・・心外だが止む終えまい・・。それにしてもこのビークルで逃走とは屈辱だ・・・」

 宣伝用に改造されいるビークルのボディはさんさんと輝くイエローを基調に”ビューティーオキノ出張ヒーローショウ”と書かれている。そこに満面の笑みのオキノが四つん這いになったドーラを踏みしだいているCGがプリントされていた。

(なんたる屈辱か。隊長ぉ・・私はなんためにここに来たか合わせる顔がありません)


「いけ、いけくんだ!ハイヨー!シルバー!」


(こいつ・・・いつか「ピー」してやる・・・)

 自主規制が入った。


 オキノが助手席に乗り込むと、ドーラは当たり前のように運転席につき、シートベルトをする。


(フッフッフ、俺が調教した通りだ。何の疑いもなく運転席についたな。これも俺の計算通りだ・・やっぱり天才なのかな・・ハァハァ)


「行くぞオキノ、とばすぞ!!」


「とばせ!とばせーデカブツ!!イーーーーッヤッハー!!」


 軍用車両を改造した真っ黄色のビークル、タートルスカッドのエンジンが力強く唸る。


「よし、いける!」


「俺って天才ぃぃぃぃっ!イーーーーッヤッハー!!・・・ん、どうした、なんで出さない」


 うなだれたドーラに声をかける。


「なーオキノ・・・縁起でもない声を上げるな。そんな声を上げるのは、やられキャラか雑魚キャラしかいないぞ」


「そんなって、どんな?」


「その、なんだ、イーッヤッハーとかいうやつだ」


 爆音は激しさを増している。

「いいから早く!お、お前が心酔するジョニー隊長様が認める俺が言うんだ。今日からこの掛け声は天才か英雄だけが許されるということだ。それをまず受け止めろ。過去は忘れろ。新たな歴史の幕開けだ!」

「・・・はい、はい」

 近くで天井がミシミシと音をたて、支柱にヒビが入りだした。



「早く!早くくぅ!」


「わかったわかった・・・」


 タートルスカッドが急発進をする、その勢いに抗えずオキノは座席にしこたま頭をうつ。


「ベルト!ベルト忘れたーっ!あたっ、うご、ごわーっ!」


 巨躯をものともとせず乱立したビークルの間を滑るように移動するタートルスカッド。その間、オキノはまるでアトラクションのジェットコースターに乗っているような絶叫を上げ続けたが、ドーラはそれを一切無視することにした。


「ごはっ!ベル、ベルト!うぼぁ!タワバ!たす、助けて!誰か助けてーっ!」





(後編へ続く)





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