白い地平の彼方に、銀色の球形を見た

明日もそうだと思っていた。

今日と同じように、

明日も当然同じようにくると思っていた。

明日も、

明後日も、

一週間後も、

一月後も、

春も、

夏も、

秋も、

冬も、

一年も、

十年も、

同じように、

ずっと同じように、

続くと思っていた。

心の底から。



終わりは来ると知っていながら。

目をつぶっていた。





日常的にあるごく普通の交通事故。

しかし、それが我が身に起きた時、それは当たり前では済まされない。

週末の温泉旅行から帰る途中、自らの運転でおきた交通事故。

その事故により、両親と妹、そして友人らを同時に失い、自らも重体となったユリ。

当然あると思っていた住む家、

当然あると思っていた食事、

当然あると思っていた日々の仕事、

家族、姉妹。

彼女が目を覚ますと、

当然あるはずのもの全てが失われた世界がそこにはあった。

思いもしなかった友人ら両親からのバッシング。

些細な噂が彼女の心をより一層孤立にさせた。

全てが消化しきれない彼女だが、健康を取り戻すごとに容赦ない現実が降りかかっていることを気づかされる。

ローンが残る両親の自宅と車、わきおこる遺産相続問題、突如現れる見たこともない親戚、つきつけられる莫大な医療費、いつ間にか解雇されている仕事。病院も半ば強制的に退院させられた。そこへ更に容赦なき人々からの魔の手が迫る。圧倒的な現実、そして自らの過失によって失われた命の大きさと自責の念の板ばさみになり苦しむユリ。死を決意した彼女がいつものホームに立ったとき、初めてある疑問にきづいた。

両親や妹の葬式はどうしたのか?

遺骨は?

お墓は?

それらの疑問と同時に絶縁した弟の存在を思い出す。



「死ぬ前にやることがあった」



ごく普通のOLだったユリが、初めて体感した”死”と自らが手を下そうとした”命”により、

初めて真剣に生きるということを考えた。

真剣に”死”を考えたなら、後悔の無い”生”を感じることもできる。



「白い地平線のずっと向こうに、・・・あったんです」

「何が?」

「銀色の鉄球」

「鉄球?」

「その時に感じたんです。私、死んでない。私・・・生きたいって・・・」

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