ブルーハート

短編1冊もので暗い話だ。気分次第では2部構成にしようかと思ったが、そこまではファイトが沸きそうにない。

男性と女性の性意識の差や、犯罪被害をテーマにした。全く境遇の異なる二人が不思議な交流を通して、次第に心通わせる物語。



彼女はクラスで「幽霊」と呼ばれていた。

友達はいない。

両親と弟を強盗殺人により失い、自らもその時に強姦された。

透き通るような白い肌、そしてスラッと伸びた四肢、丹精な顔立ち、近所で評判の美少女だった。

その日を境に彼女の生活は、人生は一変する。

親戚の下に預けられるが、精神的ショックによる奇行が目立ち親族からも見捨てられる。

今は生活保護を受けながら1人で住み、高校に通っている。





高校生活1ヶ月にして彼女はクラスの誰からも相手にされなくなっていた。

素性を知られた当初は、先生や父兄から相当の同情もあったが、3ヶ月もするとそれは消えた。

「あいつコエーよ・・・」「すげぇ不気味」「あいつが来ると気温が2,3度下がるんだよマジで」

クラスの男子たちはいつも囁いていた。

彼女の席は一番後ろ。

彼女の周囲だけが、まるで爆心地のように空白になっている。

だが、それは彼女が希望した。

「私の3メートル以内に誰も近づけたくないんです」

事情を知っていた先生は、彼女に「人生とは、人とは、社会とは」と、とくとくと言い聞かせようとしたが彼女はガンとして譲らなかった。その結果、この異様な空間が生まれ、ソレに伴って同情は敵意に変わっていく。

彼女は昼休み以外まる1日も微動だにせず椅子に座って本を読みノートに何かを書いている。何を書いているかは誰もわからなかったが、誰かが「なんか医学書みたいだよ」と言ったことから、「平成のダビンチでは?」との噂にもなったことがある。実際彼女の成績はずば抜けていた。授業中はいつも下を向いていたが、先生にさされても答えに苦慮したことは一度たりともなく、そればかりか、結果的に教師に何度も恥をかかせるほどの博識ぶりだった。ある時、そのあまりの態度に激こうした国語教師が、唯一彼女のウィークポイントである声の大きさを高らかに注意した。

「声が小さい!そんな声では正解といえない!!」

笑いが起きかけた瞬間、口を開けたまま絶句した先生の目線の先をみてクラスは静まりかえった。

時が止まったようだ。

彼女が先生を凝視していた。

まるで射殺すからのように。

全員の顔から笑顔が消えた。

目線をそらせない力があった。



かくして彼女のあだ名は、超美少女>幽霊>平成のダビンチ>サダコ>平成の女三四郎>ゴーゴン>ゾンビ>幽霊 と変転し3ヶ月たった今は幽霊で定着している。そして、クラスはもとより先生、学校の全員、父兄も含め、関係者は彼女に対してある結論に達した。

「無視」である。

彼女の存在一切を無視することで全てが順調に回り始めた。そして大荒れに荒れた高校一年という生活が再スタートきった。秋山正敏、彼を除いて。



「私の5メートル以内に近づかないで!」

ゴーゴンとまで言われた彼女の眼力を唯一ものともしない男。それが秋山だった。彼のあだ名は「絵描き」。彼の将来の夢は絵描きだった。しかも日本画の絵描きだ。

「ゴメン!間違いなく5メートル以内に近づかない。・・ちょっと聞いていいかな、クラスの皆は3メートルなのに、なんで僕は5メートルなの」

「クラスに収まりきらないでしょ。仕方なくよ」

「じゃぁ、ほんとは皆5メートルなんだ」

「えぇ」

「よかった、俺だけ一際嫌われているのかと思ったよ」

「嫌いよ。みんなと同じぐらい」

「あぇっ!?そうなんだ。嫌いなんだ」

「誤解のないように言えば、私は誰もかれも・・・何もかれもみんな嫌い」

「そ、そうなんだ。全て嫌いなんだ」

「えぇ。あなたはなんで私に纏わりつくの?あんまりシツコイとそのうち殺すよ、本気で」

他の人が聞いたら背筋が凍るような彼女の声も、まるで彼は意に介していない。

「ゴメン、悪気はないんだ。ただ、君があんまり綺麗なんもんだから見ていたくて。生まれてこのかた、君ほど綺麗な子は見たことがないんだ。君を見ているだけでなんか生きててよかったーっていうか、なんていうか・・・」

「ふぅん・・・つまり、私とセックスしたいわけ」

「ぶっ、いやいやいやいや、そうじゃなくて綺麗だから眺めていたいだけなんだ。目に焼き付けたいんだ。だから、ほんとそんなんじゃないんだゴメン」

「嘘つき・・・本当はしたいんでしょ」

「いやいやいや、いやーあのーしたいかしたくないか言われたらそれは俺も男だから君みたいな綺麗な子としたくないって言ったら嘘になるけど、それはそれで、それとこれとは違うんだ、ほんとそんなんじゃないんだ」

「今度・・・10メートル以内に近づいたら、腕を折る!」

「えぇっ!?じゅ、じゅーめとる!」

「不満?」

「いや、10メートルでいいよ・・・でも、遠いなぁ・・・美はね、やっぱり間近で余すところなく見たいんだけど・・・んー・・・双眼鏡でみちゃダメかな?」

「そんなことをしたら目を潰す!」

「しない!絶対しない!10メートル、おk!充分だよ。ありがとう!」

「ふん」

「それにしても本当に君綺麗だよねぇ、神様からの贈り物だよ。まるで女神だ。信じられないよ。昨日も寝る前感動で涙が出たよ。無理かもしれないけど、いつか君の美に相応しい絵が描けるだけの技術と腕が身についたら、君を絵にするのが今の夢なんだ」

「嫌よ!」

「あ、大丈夫!モデルになってくれって言うんじゃないんだ。だから今のうち存分にみて目に焼き付けたいんだ」

「断る!」

「えぇーっ、駄目なのぉ?肖像権の問題があるからなぁ・・・世に出さないってことじゃ駄目かなぁ」

「駄目」

「えぇーっ、じゃぁ描きあがったら必ず君にあげるから。手元には残さないから」

「今度その話をしたら、あなたの指を折るから」

「えぇーっ!それだけは駄目、指は絵描きの命だから」

「なら諦めなさい」

「えぇー・・・困ったなぁ・・・」



当初まともにとりあってくれなかった彼女だったが、3ヶ月もするとかような会話がされるようになっていた。彼女は文武両道を地でいっている。居合いの達人であり、合気道と骨法も学んでいる。だから、彼女が言っている「指を折るから」は脅しや虚栄ではなく、「殺す」も同様であった。彼女は一切の躊躇がない。ある事件で彼女が警察官に言うに「自ら好んで刀を振るったことはありません。自衛のためです」。事実そうだったが、警官は絶句した。



彼は今時珍しい絵描きを将来の夢にしていた。授業中はノートに落書きばかりして先生に怒られている。それでも彼は絵を描いた。勿論、成績は全てにわたって最低。唯一美術だけ少しいい。それでも並以下だ。「少し?」と疑問に思うかもしれないが、彼はまともに美術のテストや宿題を出したことがないのでその成績だった。これでも先生の温情だ。

「お前の普段の落書き並に出せばもっといい点を出せるのに、なんでちゃんとやらないんだ」

「だって、描きたいテーマじゃなかったから」

「お前なぁ・・・」

「ごめんなさい先生ぇー、でもどうしても描きたいテーマじゃないと描けないんだ」

「そんなんじゃプロになれないぞ」

「本当そうですよねー」

変わり者として二人とも有名だったが、決定的な違いが二人にはあった。

彼女は嫌われ者で、彼は好かれていたこと。



しばらくすると彼女との距離が10メートルから8メートル、5メートルになり、3メートルになり、遂に1メートルになる。彼は日本画の素晴らしさ、芸術の素晴らしさ、美の素晴らしさを熱く語り、彼女は誰にも秘密にしていた夢を語った。「医者になりという夢」 勿論、その理由は奇麗事ではなかった。背筋も凍るゾッとする理由だったが、彼は静かに熱心に聞き入った。実際の距離と同様に心の距離も近づいていく。そして二人にとっての運命の日は訪れた。

「描いていいよ」

「描いていいの!」

「でも!・・・絵は頂戴ね」

「うん!本当に描いていいんだね!」

「いいよ。少し・・怖いけど」

「必ずいい絵が描けるよ!僕の生涯の代表作になると思う!」

「自信家なのね」

「違うよ、君が綺麗だからだよ。素材がよくなければどんなにいい職人だって美味しい御寿司が握れないのと同じよ。職人は素材を120%活かすことしか出来ないんだ。だから僕の腕なんて問題じゃない。君を描けば誰だっていい絵が描けるんだよ」

「はいはい」

そう言って、彼女は初めて笑顔を見せた。

運命の日。

その帰りにであってしまう。

親兄弟を殺害し、自分を強姦した忌まわしき過去に。

血が沸騰するのを感じた。

目が自分になった。

全てのエネルギーが目に注がれ、半ば意識を失っていた。

彼女は目になっていた。

アイツは同じ街にいた。



彼女ははやる心を抑え自宅の狭いアパートに戻ると、居合いで使っている古刀を取り出し刀を抜き一見すると素早く鞘に収めた。それをそそくさと弓道ケースにしまうと、次は小さなバッグに医療道具を詰めこんだ。そして脱兎のごとく家を飛び出す。向かった先は秋山の家。季節は梅雨、夕方にかけ大雨が降るとの予報だった。ポツリポツリと振り出す雨の中、彼女は自転車で彼の家の前に横付ける。瞬間2階を見上げ、ノートに走り書きをすると破いてポストに投函した。彼女は頭を深々と下げ、再び自転車にまたがり猛スピードで走り去った。



そこにはこう書かれていた。



「絵が完成したらあなたが持っていて下さい。今までごめんなさい。そして心からありがとう。あなたは私の人生に唯一さした小さな光でした。行って来ます。さようなら。夢が適いそうです。」



彼が帰って来たのは日もすっかり暮れたころだ。

外は予報通りの梅雨の大雨。蒸し暑くジメジメしている。

日本画の先生の稽古から帰ってきた。

彼が帰ってすぐ母親がメモを手渡す、

「あっちゃん、お帰りー。ご苦労様。夕飯できてるわよ」

台所に戻ろうとしたが、

「あっ、そうそう」

そういってきびすを返すと、朗らかな母親はノートの切れ端を渡す。

「コレあなたの友達かしら?ポストに入っていたんだけど」

「え?何なに~?」

彼は嬉々として受け取る。

文字を見た瞬間に彼女とわかった。

同時に危機迫るものを感じた。

「夢が適いそうです」

その最後の一文を読んだ時、彼は全身から血の気が引く音を聞いた。

「母さんゴメン!夕飯後にする!!」

そういって荷物を投げ捨て走りだす。

「ちょっとーあーちゃん!どうしたの」

そう叫んで追いすがる母親の声はもう彼には聞こえなかった。



一方。

彼女は自分が鬼に化身していくことを肌に感じながら自転車を信じられない速さでこいでいた。

血が血を求めていた。

��全てはこの日のために・・・)

��父さん)

��母さん)

��チーちゃん)

��仇を討つよ・・・アイツを皆がされたと同じような目にあわせるよ)

��両手を手を切り落とし、)

��両足を切り落とし、)

��止血して、)

��殺菌して、)

��輸血して、)

��容態が持ち直したらゴミ箱いれ、)

��食事を与え、水を飲ませ、)

��西太后がしたように、生かしながら余すところなく殺してやるよ!!)

��生きていることを後悔させてやるよ!!)

��したことを、してきたことを一生涯後悔させてやるよ!!)

��そして、私は生涯あいつの死にゆく様を観察するために生きてるやる!!)



「地獄に落ちろぉぉぉーっ!!」

彼女は自分でも驚くほど腹の底から声が出ていた。

彼のお陰で生まれかけた人間性の欠片を捨て去った。

その彼女の叫びもこの大雨にかき消され誰も耳にすることない。



その後、彼女がどうなったのか。

彼がどうなったのか。



なんとなくツンデレな恋愛要素があるみたいに感じるかもしれませんがエッセンスと結果の一つに過ぎません。恋愛物語じゃないから。彼は彼女を「美」という大きなテーマでもって捕らえ、彼女は彼に男や異性としてでなく、もっと大きな、本質的な人としての愛の存在を感じ変化しいきます。しかし、運命の日にその積み上げたもの全てが無にかえる。果たして二人はどうなるのか?くっ付いたり離れたりユーザーを翻弄するだけの恋愛ゲームにしたくはないです。もっと広い意味での「愛」をテーマにしたいと思います。この小説は簡単に例えると、私なりのドストエフスキーの罪と罰です。ココまでが第1巻で、2巻で完結する内容。2巻は一変します。毎度のことながら基本、構想しかないので詳細は未定です。方向性だけは定まってます。2巻までかかないと罪と罰は成立しそうにないね。



犯罪をテーマした点では、少年犯罪者A、限りなくグレーと系統的に同じですが、毛色はかなり違うかな。主人公は3者とも全く違うタイプで、Aは情念を貯め続け、自分と相手とのかかわりが半々でキッカケを待つタイプ、グレーの少女は全てが内側に向かうタイプ、ブルーは外側に向け只管発露するタイプ。ただ、共通しているのは自分自身を受け入れられないという点のみ。大きなテーマです。自分を、自分の性格を、置かれた環境を、人生を、運命を、宿命を、全て受け入れられるか。これ即ち、本質的には信仰につながっているんですね。犯罪、戦争、愛、哀、運命、宿命、人生、信仰、狂気と正気など私の小学生以来からのテーマです。



まー・・何してもちゃんと完結させろ!って話ですがw 何せ文才が無い。<(_ _)>ペコリ

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